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2010.03.01

脳と五感の雑学

五感を活性化する最終兵器は香り成分にあり

 世界的に人間の感性を高めようとする研究が活発化してきた。アメリカの国防総省では脳の視床下部に存在する神経細胞が生み出すオレキシンAと呼ばれる神経ペプチドに着目し、「兵士が最高レベルの体調を維持しながら作戦遂行が可能になる」ための添鼻薬の研究開発を進めている。こうしたオレキシンのスプレー化したものを吸引すれば、睡眠が不要となり人間の活動時間が一挙に拡大するという。
我が国でも経済産業省が中心となり、感性や五感に注目した生活空間やライフスタイルを進化させようと動き始めた。具体的には、「人間生活技術戦略」を立ち上げ、2030年を目標に日本の技術を生かした新たな感性ビジネスを育成する方針を明らかにしている。
思えば、五感の中で最も研究開発が遅れている分野が嗅覚であろう。我々の生活を便利で豊かなものにしているITや通信の世界を見ても、視覚と聴覚が圧倒的に主流派だ。しかし、嗅覚によって得られる香り成分は、人間の記憶、感情、言語といった学習能力を飛躍的に向上させる可能性を秘めている。
にも拘わらず、これまで香りのもたらす効能については十分な研究が行われてきたとは言い難い。本来人間がかぎ分けることのできる香りの種類は1万種類にも及ぶという。ところが、実際には我々はその数%も識別できていないのではないだろうか。嗅覚は我々の食生活を豊かにするだけではなく、食物が安全かどうかを判断する上で、人間の生命維持に不可欠の役割を担っている。
2004年、ようやくリンダ・バック博士とリチャード・アクセル博士が嗅覚を司る遺伝子構造の研究でノーベル生理・医学賞を受賞した。匂いのかぎ分けと記憶の仕組みを解明したのである。我々の肉体を構成している遺伝子の中で、嗅覚を司るものは3%を占めていると言われるほど。それだけ重要な要素でありながら、我々はあまりにも無頓着であった。
幸いにして日本には「香道」に代表される、独特の香り文化や伝統が息づいている。秘められた能力を開花させるためにも、脳の活性化を一層促進するためにも、今こそ香りのパワーにスポットを当て、新たな生命科学を興し、その成果に立脚した産業の開発に取り組む時であろう。本協会がこうした分野で先駆的な役割を担うことを大いに期待するものである。
 
浜田和幸

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